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あたかも普通の恋愛小説
第4章 恋花・火花
またキスをして慈しむような舌が頬に耳に首に伸びていく。井藤くんがたてる微かなリップ音に溺れそうになる。
抵抗せず身を任すのはすごく楽なの。海の上でプカプカと浮かぶみたいにとても気持ちいいの。誰かに恋い焦がれて苦しいなんて私には合わない。だってずっと私は楽な道を選んだ。
井藤くんの服を知らず知らずギュッと掴んでいた。
真壁さんのことを好きだと思う気持ちも今ならまだ引き返せる気がした。
ポロポロと涙が溢れるけど、仕方ない。これ以上好きになったらもっと辛いはずだから。
「真壁…さんは、すごく、優しくて」
勝手に口から言葉が出た。
「だから、私、真壁さんとなら、変われるんじゃないかって」
夢を見た。でも変われない。私は臆病だもの。傷付くのが怖い。
「大丈夫だよ。俺が忘れさせてやるから」
心の傷に沁み込む。井藤くんの言葉や愛撫は私を楽にする。辛いことを投げ出してすがることを許してくれる。
私は自分から手を伸ばして井藤くんにしがみついた。鎖骨から胸へキスをやめない井藤くんにしがみついた。