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秘密
第5章 仮面の下
百合子は姉が止めるのも聞かず、どんなに咲子が苦労してきたかを涙ながらに話して聞かせた。

そして終いには「やっぱり姉さんは今が一番幸せなのかも知れないわ」と言い残し、妙に納得して帰って行った。




「あぁ、嵐が過ぎ去ったみたい…」


テーブルを片付けながら咲子が呟いた。


「つまらない話を聞かせてごめんなさいね」

「いいえ、そんな事…」


キッチンで洗い物をしながら、沙織は西村の事を考えていた。


道ならぬ恋に溺れ、家族を犠牲にした義父

愛しい家族に全てを手渡し、思い出も何も持たずに連絡を絶った義父

そうまでして愛する者の元へ行った筈の義父が、なぜ新しい家族を持てなかったのだろう

所詮、女に弄ばれただけの惨めな結末だったのだろうか…



──「元に戻るだけじゃないですか、今ならまだ間に合いますよ」


杏奈の声が聞こえる。


なぜ義父は、女との関係を清算し何食わぬ顔で家に戻らなかったのだろう

私は

元に戻れるだろうか

誰かが秘密を暴くのだろうか

それとも義父のように自分から…


夫は…



咲子と他愛ない会話を楽しみながら、沙織は女と戯れる夫の恥態に、冷たい視線を送っていた。






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