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秘密
第6章 酔い
『君が帰る頃に、あのバーで待ってる』


次の日の朝、家を出て携帯を開いた沙織は、倉本からのメールに驚いて立ち止まった。


『早く帰宅したいんです。約束はできません』


休日の倉本はすぐに返事を返してくる。


『あれからずっと寂しくて堪らない』

『困らせないでください』

『困っているのは俺の方だよ』


胸の奥に硬いしこりが出来たような息苦しさを感じ、沙織は立ち止まったままで必死に言葉を探した。


また携帯が震えた。


『待ってる。
顔を見るだけでいいんだ』


沙織は返信できずに携帯を閉じた。

硬いしこりは熱を帯び、僅かな怖れとともに甘い痺れが躰中に行き渡る。

家から遠ざかる一歩一歩が、倉本に近付いて行く道筋に思えてくる。




──「あぁそうだ、来月の出張は2泊になるからね」


昨日の午前中、咲子が階下で横になっていた事も知らずに寝ていたという慎一郎は、咲子を気遣う沙織の様子を気にする事もなく「母さんはまだ若いから平気だよ」と笑って言った。


すぐに話は出張の予定に切り替わり、沙織はその内容を聞くふりをしながら息子なんてこういうものかとがっかりしていた。




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