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秘密
第3章 渦巻く疑念
駅から自宅までの道を、沙織はゆっくりと歩いた。

すれ違う人が知り合いでない事を願い、家にはまだ明かりが灯っていないようにと祈った。

ほんの30分前に起きた事が夢だったのではないかと思う程、町はすんなりと沙織を受け入れ、人は誰も気付いていない。

沙織は指先で唇をなぞり、肩に触れ、腕に触れ、自分の躰を愛しんだ。


キスをしてしまった

抱きしめられてしまった

あんなに激しく
何度も
何度も…

夢じゃない
まだ残ってる

あの人の匂いが
声が…


近付いてくる自宅の二階に目を向けると、まだ誰も帰宅していないよと、洗濯物が教えてくれる。

ふと立ち止まり、外灯の光の中に浮かび上がる我が家を眺めた。

手入れの行き届いた庭に咲き誇っていた向日葵が、うつ向いて立っている。

夏の間はずっと鮮やかな黄色を見せてくれると思っていた向日葵も、10日目を過ぎると少しずつ花の終わりを迎えてしまう。
盛りを過ぎれば枯れてゆき、種を残して役目を終える。


私には何が残せるだろう


『西村』と刻まれた表札を見ながら門を入り、ドアを開け、廊下とリビングの明かりを点けながら洗面所に向かった。





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