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秘密
第5章 仮面の下
鳥のさえずりが聴こえる。

慎一郎が帰宅する気配にも気付かず寝入っていた沙織は、目覚めてからずっと隣で寝息を立てている夫の横顔を見つめていた。

昨日は夜まで別の男に抱かれていたというのに、今朝はいつもと変わらぬ朝を迎えている。
あんなに激しく欲望をさらけ出した事が夢だったのではないかと思う程、沙織は冷静だった。

後悔も後ろめたさもない。


あなたもそう?

昨夜は誰と?


ベッドから出る気配に気付いたのか慎一郎が「ん…」と言って寝返りを打った。

「おはよう、あなた」

「あぁ…、今日はゆっくり眠っていたいよ」

「何か作っておくから目が覚めたら温めて食べてね」


「うん…。…沙織…」

「なぁに?」


眠そうな夫に優しく微笑んだ。


「夜中にうなされてるみたいだったけど大丈夫?」

「えっ?」

「怖い夢でも見た?」

「どうかしら…、よく覚えてないわ」

「仕事を増やし過ぎて疲れないようにね」

「大丈夫よ。あなたも無理しないでね、おやすみなさい」

「あぁ…、…いってらっしゃい」

「ふふっ、いってきます」


再び眠りに落ちていく夫に笑顔で答えながら、沙織は部屋を出てすぐの洗面所の前に立った。



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