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桜宴香~おうえんか~
第1章 桜宴香

まったく……会社の花見だなんてかったるい。明日は土曜だから世間は休みだけど俺は呼び出しがあれば休日返上して仕事かもしれない危機的状況。
一昨日も昨日もほぼ徹夜状態で家に帰ってシャワー浴びて仮眠とってすぐ出勤。トラブル続きの年度初めを迎えて頭の痛い日々が続いてるってのに呑気に花見なんてしてられっかっての。
だけど花見も仕事のうちだと思い直し、通常業務を切り上げた俺は花見会場へと歩き出す。
入社して10年。新人でもなく担当業務のエキスパートでもない、中途半端なキャリア。当然ベテランの域に達していなければならないのだろうけど、まだまだそこに到達する気がしない。
俺って何なんだろうな?と自問自答する日々を送っている。杉浦湊(ミナト)、32歳。
がむしゃらに仕事をして気がつけばこんな歳になってた。
彼女もいない。過去にいたことはあったけれど長続きはしなかった。
“仕事と私、どっちが大事なの?”って聞かれてもなあ。比べるベクトルが違うと思うんだよ。どっちも大事だったんだけど、その台詞聞いたら仕事のほうが大事かもって思ってしまった。
うまくやれる奴もいるんだろうけど、俺ってキャパが狭い。懐も浅い。もっと心にも頭にも余裕が欲しい。
周りの盛り上がりようとは裏腹に、心のなかで大きくため息をつく。
持っているコップにどんどん注がれる酒。睡眠不足の身体には相当なダメージだ。
「杉浦ぁ、飲んでるか?」
隣の課の課長が俺にもたれかかりつつ絡んでくる。酒癖が悪くて厄介なんだよな、この人。
「ああ課長、俺寝不足でヘロヘロなんですけど頑張ってまぁす!」
警戒しながら一応テンションも上げつつ無難な対応を心がけると
「なんだぁ?寝不足?女と一晩中ヤってたとか?がははは!」
下品な憶測をされて苛立つ。
「そう言いたいところですがー、残念ながら仕事です」
「お前な、まだ若いのにもったいねえ。ちゃんとプライベートも大事にしろ。俺が若い頃なんて……」
お決まりの武勇伝が始まった。嫌だね、年寄りは。
プライベート大事にって言われても実際時間が取れねえんだからさ。
それに俺は……

