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桜宴香~おうえんか~
第1章 桜宴香
 「課長は侠気(オトコギ)があるから女が寄ってくるんでしょうけど、俺全然モテないし」

 そうなのだ。彼女がいたのは今から考えれば奇跡だったかもな。冴えない俺は基本モテない。

 「家と会社の往復でそれもほぼ居眠りしてて、休みの日は疲れて家でぐったり。この生活のどこに出会いが?」

 「案外近くに転がってるもんよ。自分から探しにいかなきゃ手に入らねえぜ?」

 肩を組まれてガシガシと乱暴に揺らされた。

 一気に酔いが回る感じだ。

 「はぁ、頑張ります」

 うぇー……気持ちわりい……

 課長に頭を下げると余計に酔いが回って胃がムカムカしてきた。

 こりゃまずいな。ひとまず夜風にでも当たって休もう。


 こっそりと宴から抜け、俺はふらりふらりと歩き出す。

 会社の昼休みにもよく来る大きな公園。花見会場になった場所から離れた遊歩道を進めるだけ進むと最後は小高い丘にたどり着く。

 その場所にも一本だけ桜の木があったはず……。

 少しだけ開けたその場所で、それほど大きくない桜の木は静かに満開の花を咲かせていた。

 周りを他の大きな木々に囲まれているせいか、何か頼りなげで儚げに見える。

 けれども一本だけライトアップされ幻想的に浮かび上がる姿はどこか凛として厳かだった。

 俺、この木好きだな。

 心地の良い空気が流れる中、その木の根元に座って背中を預けると、なんだか気が抜けてしまって……俺はいつの間にか意識を手放していた。

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