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大地の恋
第3章 プリズム
千花ちゃんの表情はいつもの無邪気なものじゃなかった。


「人の気持ちなんて時間が経てば変わっちゃうんです。どんなに好きでも……」


「千花ちゃん…」


掛ける言葉が見つからない。


「……でもね、今の母…いつもは“みっちゃん”って呼んでるんです。祖母にはちゃんとお母さんて言いなさい!ってよく怒られましたけど、私と弟たちのお母さんは亡くなったお母さん一人なんだから無理に“お母さん”って呼ばなくていいよって言ってくれて…」


「………」


「亡くなった母のことも大切にしてくれるんです。いつも仏壇には綺麗なお花飾ってくれて、母の誕生日にはお祝いしてくれるんですよ。何年か前なんてその日を忘れて遊び呆けてた弟にマジギレしたくらい…可笑しいでしょ?」


「いいお母さんじゃないか」


「そうなんです」


千花ちゃんはニッコリ笑った。
俺は…血の繋がった両親のもと、血の繋がった兄弟と何も考えずに育ってきた。


小学校、中学、高校……
この子は笑顔の裏で胸を痛めてきたのだろうか。
勿論そればかりじゃなく、義理の母親や妹弟との絆は確かなものなんだろうけど。


「妹も弟も生まれてうちは更に賑やかになって…でもやっぱり私と弟たちはここに居ていいのかなってどこかで思ってきた部分もあったんですよね。だからかな…板橋さんが元カノを忘れられないって…その一途さが素敵だとも思うんですよ」


「はあ?俺浮気してんだぞ?」


「それはいただけないですけど…でももし今元カノさんとよりが戻ったら繰り返しますか?」


「…よりが戻るとかねーから」


悲しいことだけど。



「じゃあ板橋さんにまた大切な人ができたとしたら…繰り返しますか?」


「……絶対しねーな」


もう後悔はしたくないから……



「ほら、…板橋さんはそういう人なんですよ」


「………」


「私も板橋さんはそんなこともうしないと思います。次は…きっと彼女をすごく大事にして幸せになれますよ」


ーーーー言葉が出なかった。
千花ちゃんの言葉は空っぽの俺の心に水を与えてくれるような優しさに溢れていて。


幸せになっていいんだろうか。
こんな俺が……
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