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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ
誕生歌に混ざって嗚咽が漏れそうになり、アリエッタは両方の掌を重ね口許を覆う。
前髪で隠れた瞳は悲痛に歪んでいることだろう。眦〈マナジリ〉に溜まる涙を溢さんと奥歯をぐっと噛み締める。
「アリエッタ?」
悲痛に震えるアリエッタの背後から二週間聴きたくて、でも聴きたくなかった声がし、背中が跳ねた。
まさか彼がいるはずない。これは幻聴なのか──アリエッタのギリギリで保たれる精神がもたらした幻であるのか。
ゆるゆると腰を捻る。そこには月の光を浴び、薄闇に月と同色の淡い金色の髪が光るレオの姿を認めた。
あまりの神々しい出で立ちに、神が降り立ったのかと思った。
ついに天へ召されるのか──罪深いアリエッタも慈悲深く御元に置いてくれるのか。
そんな馬鹿げた想いに馳せていると、レオはアリエッタの傍らまで来ると跪き頬に掌をそっと宛てた。
掌から伝わる温もりが、幻でも神でもなく本物だと教える。
「アリエッタ? こんなところでなにしてる?」
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