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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ



 そう言えば夕食も食べてなかった。雰囲気だけでも出してみようか──。


 虚しさが増すだけと知っていても、月明かりを頼りに思い浮かべる料理の数々を描いてく。


 芸術的に盛られたサラダ、野菜とハーブのスタッフィング、ラムのローストやジャムが添えられたプディング……。


 1枚描いてはページを破り取り地べたに並べ、また1枚描いては置く。


 そして祝って欲しい家族の様子をペンをスケッチブックに走らせるが、輪郭を描けてもやっぱり顔が描けず。


 この絵だけは想像力をはち切れんばかりに膨らませても描けず、すとんと広がるドレスのスカートの上に腕が落ちた。


 プレゼントも美味しい料理もいらないから、たった一言『おめでとう、アリエッタ』と言ってもらいたかった。


 アリエッタは口ずさむ。


 悲しい音色の誕生歌を。


 聴いているのは自分とここに息づく植物だけ。


 どこまでも切なくなる調べはアリエッタの胸を抉った。






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