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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ


 これでレオと言葉を交わすのも最後。鍵を返し、贈り物も返品すれば、アリエッタを縛るものと彼との繋がりも無くなる。


 奇跡の廻り合わせで交錯したレオとの繋がりをアリエッタは自らの手で手放そうとしていた。


「レオナルド様。これはお返しします」


 バッグの上に置いておいた画材と鍵を持ち、レオに差し出す。けれど受け取ろうする素振りはない。


「鍵は解るが画材は謝罪の意で贈ったんだ。それにその荷物……家に帰るのか?」


「いいえ。実は私、嫁ぐのが早まりました。ですので筆ももう取るつもりはありません。せっかくいただいたのに申し訳ありません。今までここを使わせていただいてありがとうございました」


 アリエッタは一揖し、受け取ってもらえない返すべき二つの物をテーブルに置き、バッグを持ち上げた。





 歩む足がひどく重い。だが立ち止まるわけにいかない。


 アリエッタはこのときばかりはわざと丸めて歩く癖をやめ、毅然と背筋を伸ばしレオの隣を通り抜け、扉まで歩いた。




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