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隠匿の令嬢
第5章 獣の邸と淫らな教育係


 ドレスアップをしたアリエッタが次に案内されたのは広々としたダイニングであった。


 清潔なテーブルクロスをかけられた長いテーブルの向こう側、レオが着席していた。


 アリエッタがダイニングに入ると微笑を湛えて立ち上がり、エスコートをしてくれる。


「見違えた。すごく綺麗だ」


「あ、あの……」


「まあ座って。食事はまだだろ? 俺もなんだ」


 アリエッタが戸惑っているうちに給仕が次々と料理を運んでくる。その料理にまた驚かされる。


 まさに先程アリエッタが想像し、描いた料理であったから。


 グラスにコポコポとシャンパンが注がれる。


 細かな泡を液体の中に揺蕩〈タユタ〉わせるグラスを掲げ、レオは言う。


「おめでとう、アリエッタ」


「──え?」


 一瞬、レオは今日アリエッタにとってどんな日なのか知っているのかと思った。彼が知るはずないのに。


「……今日からキミも我が家の一員だ。歓迎する」


 その言葉で誕生日のことを言われたのではなかったと察したが、アリエッタはなぜか泣きそうになった。嬉しくて、感じたことのない幸福で満たされて。


 別の意味であっても『おめでとう』とこの日に言ってもらえて。


 泣いちゃいけない──。


 過ぎた処遇への罪悪感は泣くのを我慢するという名目で、愚かしくも今日だけはと胸の内にしまいこんだ。






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