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隠匿の令嬢
第5章 獣の邸と淫らな教育係
「僕ね、このお邸に来る前は草の根をかじって生きるような生活してたんです。だから自然と覚えたっていうか……。レオ様に拾われてなかったら、今ごろどこかでのたれ死んでましたよ」
「レオに……?」
「はい、もう五年も前の話です。あのときレオ様に逢ってなければ、犯罪に手を染めてたかもしれないです。実際、人に言えないようなこともしましたし」
あどけないキッシュの横顔に、僅かに翳りが見えた。アリエッタが眼を見張っていれば、キッシュはにこりと口角を上げる。
「僕のこと、軽蔑しました?」
「いいえ! いいえ、しないわ」
アリエッタは膝を地面につけ、隣で作業をするキッシュの手を取って、自分の掌の上に乗せる。
その手は爪の間に土が入り込み、ささくれ立ち、細かい傷があちこちにある。
「生きていくって大変なことだもの。この手を見れば解る……。苦労してきた手ね。でも私は好きよ。苦労を知ってる人は、他人にも自然にも優しく出来る人だもの」
「アリエッタ様……」
僅かに微笑むアリエッタ。キッシュは照れたようにアリエッタを見詰め返す。
と、そのとき。二人の上に影が落ちた。
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