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隠匿の令嬢
第5章 獣の邸と淫らな教育係


 最初の夜は気持ちが高揚していたことが手伝い、これほど美味しい料理をを食べた覚えがないというくらい美味しく感じられたのに。


 酸味の効いたドレッシングがかかったサラダも、彩り豊かな野菜のスープも、魚のソテーも。どの料理も美味しいのだろうが、ほとんど味がしない。


 こうまでアリエッタがダイニングで摂る食事を愉しめず、味わいすらも出来ず、黙々と嚥下しているのは染み付いた習慣──条件反射とも言えるものからだ。


『喋るな、耳障りだ』
『こちらを見るな。その眼を見るだけで不快になる』
『お前がいると食事が不味くなる』
『同じテーブルにつけるだけ、ありがたく思え』
『つまらん娘だな』


 投げられた悪意の数々が脳裏に蔓延り、すぐそこで聴こえてきそうで。誰とも眼を合わさず、一言も喋らず、味のしない料理を嚥下し続けるだけ。


 いくら洗っても落ちない真っ白な布に垂らされた油汚れのよう、アリエッタに染み付いて離れない習慣に身を寄せていれば、目の前で物言いたげなレオにも気付かないでいた。






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