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隠匿の令嬢
第7章 危険な一夜
王太子であるレオが衛兵も従えず、各地を飛び回れるのは彼の剣の腕前からきている。ラインハルトは概ね平和な国ではあるし、隣国との情勢も安定している。
だが暴漢や善からぬことを企む者はいつの世にもいるもので。身の安全を考えれば、ぞろぞろと大勢の衛兵を従えていても良さそうなものであるが、国で一番の剣の使い手にも引けを取らない腕前らしく、同じく剣の名手であるジョシュアだけ連れて飛び回っている。
──但し、これはあくまでもアリエッタが聞かされた話。
レオ一人ならどうにでもなるがアリエッタを伴っているので、有事の際に動ける衛兵を何名か着いてこさせてはいる。
アリエッタは夢中で流れる景色をその眼に刻んでいるので、ジョシュアたちを乗せる馬車の更に後方で、旅人を装う衛兵が着いて来ていることには気付いてない。
アリエッタに変な心配や気後れをさせないがためのレオの配慮だ。
ルードリアン男爵邸に着いた一行を男爵自らとその夫人が出迎えてくれた。
「王太子殿下。遠いところ、わざわざお越しくださって光栄です」
「なにもないところですが、我が家だと思ってお寛ぎくださいね」
「いえ、こちらこそご家族で過ごされているところに突然訪問して申し訳ありません。首都へお戻りの際は、ぜひ私の邸宅へもお越しください」
レオは普段の“素”を隠し、慇懃で物腰柔らかな振る舞いをする。アリエッタは普段に馴れてしまったせいか、そわそわとした心地で彼の一歩後ろで控えていた。
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