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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影


 これはどういうことなのかなんの説明もなく馬車に乗せられると、そこで漸くレオが説明をしてくれた。


「メフィスと違ってボドロの街は貴族がそこらを横行してる街じゃない。だから溶け込むための対策ってやつだ」


「私は止めたんですけどね。レオ様は一度言い出したら聞かないんですから」


「ジョシュア。その口調も禁止だ。強引に着いて来てるんだから、言うこと聞けよ?」


「護衛もつけず主人をひとりで歩かせるわけに参りません」


「だからそれ禁止だ。……ったく、頭の固い男だな」


「レオ様が緩すぎるんです。いいですか? 私は側仕えの筆頭として、あなたの御身を守る義務があるんです。その義務を果たすための進言をあなたという人は……」


「あー、あー。聞こえん」


 耳を塞いでそっぽを向くレオ。アリエッタは彼らのやり取りに思わずクスクスと笑いを漏らした。


「なにが可笑しいんですか?」


 ジョシュアはアリエッタの笑いに眉を顰める。


「だって……お二人が仲のいいご兄弟みたいで」


「だってさ」


「とんでもございません。私がレオ様と兄弟などと……」


「いいじゃないか。今日はその設定でいこう。な、ジョシュア兄上?」


「なんてことを……!?」


「お嫌でしたら、“兄上”は馬車で留守番していてください」


 レオの慇懃な口調にジョシュアは口をぱくぱくとさせる。しかし皮肉にもジョシュア自ら言ったよう、レオが言い出したら引っ込めることはほぼ有り得ない。


 最終的には従わざるを得ないのだ。




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