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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影



 ボドロはルードリアン男爵邸より馬車で一刻ほど走った、小高い丘に家々が建ち並ぶ街であった。


 大きな街ではないものの、貿易の中継地として活気があり、気候にも恵まれているため田畑も多く、果樹園も点在する。


 ひと度街へ入ればどこそこで品物を売る商人の呼び込む声が響き、旅人や貿易商が練り歩き、食糧の補給をし、また別の街へと旅立つであろう。




 アリエッタは午前の頭の重さなど遠くへと飛ばされてしまったよう、果物や魚、野菜が売られる店先で足を止めてはまた踊るよう別の店へと行き。


 硝子細工や陶器、武器や防具の店先では身体が貼り付いてしまったよう眺め。


 宝石店の前ではその色合いに魅入られ、漆黒の双眸を輝かせた。


「アリエッタ。はしゃぐ気持ちはわかるが、はぐれるなよー」


「ええ! 平気よ!」


 見るもの全てが目新しく、輝いて感じる。人も、物も──。


 メフィスではもっと珍しい物が溢れてはいるが、貴族が横行する道ではこうもはしゃげない。威圧感としがらみがアリエッタを押し潰し、消し去ろうとしているようだったから。


 どこか自由を嗅ぐわせるボドロの街が、一時だけアリエッタからしがらみを忘れさせたのだろう。







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