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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影
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ルードリアン男爵邸で過ごす最後の夜。調子を取り戻したニーナがアリエッタの部屋を訪ねてきた。
「今日はごめんね。アリエッタと出掛ける約束してたのに行けなくて」
「いいえ、いいのよ。それより気分はもう悪くない?」
「ええ、もうすっかり良くなったわ。お酒はもうこりごり。馴れないことはするもんじゃないわね」
アリエッタも「そうね」と頷く。ほんの少ししか呑んでいないはずのアリエッタでさえ記憶を失うくらいだ。酒とは今後無縁になりそうだと、二人して無言で頷き合った。
「あら? そのガーベラはどうしたの?」
ニーナがテーブルの上に一輪だけガラスの花瓶に生けてあるガーベラを眼に留めた。
「それはボドロの街で花売りの子供からレオが買ったのをいただいたの」
出来るだけ何でもないことのように話す。ガーベラを見るだけで胸が騒ぎ始めるが、騒がせる正体と向き合うのがなぜか恐ろしくて。
眼に入らない場所に置こうともしたが、万が一レオが訪ねてきたらそれも失礼な気がして。
結局は目立つテーブルの上に置くことにした。
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