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隠匿の令嬢
第2章 温室での密会
レオは地べたにしゃがみこんでいるアリエッタに手を差しのべた。立つよう促しているのだろう。
断るのは礼儀に反するが、アリエッタは躊躇う。鉛筆の墨で汚れているし、水仕事をしている手は荒れている。他人に汚れ荒れた手を晒すのに恥じ入って躊躇していれば。
「どうしました?」
やはり断るのは礼儀でない。恐る恐る震える手をそっと乗せる。
レオの手を借りて立ち上がろうとするも、全身が小刻みに震えていて脚に力が入らない。
くすり、とレオは小さく笑い、大きな掌でアリエッタの手を包むよう握り、腰を折って背中から細腰を支えて立ち上がらせた。
「あ……ありがとうございます」
か細く礼を言う。
「いいえ。さ、こちらに」
レオによってベンチに誘導され、腰をおろす。
どうやら彼は勝手にスケッチしていた無礼は気にしてないようだ。
レオから感じられる空気に憤りはない。
そしてレオがアリエッタの名を知っていたのも、誰か知り合いにでも聞いたのだろうと結論付けた。
片方が知らずとも片方は知っている。そんなことは往々にしてあるものだ。
毛色の珍しい“灰ネズミ”がいると、噂話の種にでもなったんだろう。
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