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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影
「レオナルド様の絵かね……。さて、どうだったかな? ……残念だが見た記憶はないの」
「そうですか……」
アリエッタは僅かに落胆し、そしてますます興味が湧いてしまう。
「ああ、でも鑑賞されるほうがお好きだとは窺ったことはあるぞ」
ギルデロイは髭を撫で「あれは確か」と思い出す素振りをして話し出す。
「まだほんの数年前の出来事だったか……。殿下がご心痛で塞ぎこんでおられると耳にしてな。こんな老いぼれでも僅かばかりでもお心を慰められればと王城に伺ったときだ。
儂が殿下に面会が叶ったときには既に心痛も和らいでおられていて。何でもとある画家の絵に癒されたのだとか。
その時に絵は描くほうは得意ではないが、見るのはいいな、とおっしゃっておられたんだよ」
「そう……だったんですか」
レオが心痛で塞ぎこんでいたという話は初めて聞いた。彼はアリエッタの前ではいつも毅然とし、強く優しかった。その彼が塞ぎこむというからには、相当な何かがあったのだろう。
そして絵がレオを癒したと聞き、なぜ彼がアリエッタに親切にしてくれているのかも解った気がする。
彼は絵が持つ無限の力を知っているのだ。そしてそれを描く画家を大切にしているだけだ。なにもアリエッタが特別なわけではなく、アリエッタが絵を描く者であったから親切にしているのだ。
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