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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影



 彼女はアリエッタに手紙を渡すとそそくさと去っていく。


 手元に残された封筒に首を傾げながらも表や裏を見てみる。宛名も無ければ差出人の名もない。


 学校に知り合いらしい知り合いはニーナの他にレオとセドリックくらいしかいない。二人がわざわざアリエッタに手紙を寄越すはずもないし。


 だがなぜか胸騒ぎがする。特段変哲もない白い封筒。なのにこのざわざと波立つ感じはどこから来るものなのか……。


 ともかく中身を見てみようと封筒を開き、便箋を取り出す。


 二つ折りにされていた便箋にはたった一行しか文字が綴られていなかった。


『礼拝堂でお待ちしてます』と。




 しかしその一行でアリエッタは奈落へと落とされた気分になった。冷や水を浴びせかけられたよう、体温も一気に下がり、喉はカラカラに渇き。


 疾走したあとのように動悸も早鐘を打ち、呼吸すらままならない。


 アリエッタにはその文字に見覚えがあった。


 休暇前にもアリエッタを奈落へと落としたあの文字。


 昼間だというのに目の前は真っ暗で、ここがどこだか解らなくなったようであった。







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