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隠匿の令嬢
第8章 忍び寄る影
アリエッタは中庭の芝生からどこをどうやって歩いたか記憶にないまま、礼拝堂の前に立っていた。
寄宿舎に身を置いていた頃、毎日通い、アリエッタを優しく迎え入れてくれていた場所だ。
休暇が明けてからも講義の合間に訪れ、祈りを捧げていた。
身体に染み付くほど慣れ親しんだ場所であるはずなのに、今はとても恐ろしく物々しく佇んでいるように感じる。
扉を開けば最後、もうどこへも行けなくなるような……。閉じ込められ、生きて帰れない気さえする。
けれど逃げることも出来ない。アリエッタは罰を受ける義務があり、待ち受けているであろう人物には罰を与える権利があるから。
冷たい指先は礼拝堂の扉の感触を伝えない。なのに重みだけは普段の何倍も増しているようで。
建て付けが悪くなっているのか、ギィと不穏な軋む音を立てながら扉が開いた。
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