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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由
──学校へ行けるとなっても、手放しで喜べるほどアリエッタの心は正常に働いてはいなかった。
アリエッタが生きる意味をも無くし、幸せになることすら望まなくなっていった理由は数え上げればきりがない。
父母とリリスが仲良く三人で庭を歩いているのも、遠くから眺めるだけ。
ダイニングでの食事の最中は、アリエッタを居ない者とし会話が進められ、混ざろうとする素振りを見せただけで、途端に父とリリスの機嫌が悪くなり。
母は最初の頃はアリエッタを気遣い、会話を振ったりもしてきたが、あとから……その場でも度々父が母を咎めたりもし、アリエッタから母に気を遣わないでと頼み。
そのうち使用人と食事をすることになって。
旅行もアリエッタは連れて行ってはもらえず、ドレスは古びた物へとなり、部屋も使用人が使うところへと移動させられ。
アリエッタはそのどれをも甘んじて受け入れた。
リリスが常に二の腕まで覆う手袋は傷を隠すためであり、そうさせたのは自分であるのだから、と。
優しくしてくれる使用人とこんなやり取りもあった。
「アリエッタ様。掃除などは私たちがやりますから。アリエッタ様がなさることではありません」
「いいえ。私はここに“置いてもらっている”のだから、これくらい当然よ」
──アリエッタはザキファス公爵の長女としての誇りも、娘であることもどこか遠くに置いてきてしまっていた。
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