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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由


 そんな日々が続くなか、アリエッタが心穏やかで、自分を出せるのは絵を描いているときだけになった。


 絵を描くきっかけになったのは、落書き程度の絵を父に見せたら、珍しく褒められたからだった。


 リリスはしょっちゅう絵を描いてとせがんできたし、母も描いた絵を見せれば嬉しそうにしていた。



 リリスの事故があってからも続けたのは、絵を純粋に好きという気持ちもあるが、心のどこかで過去の幸福だった頃の記憶──家族とアリエッタを繋げる唯一のものが絵であるからかもしれない。





 そしてその絵がアリエッタとレオを出逢わせ、アリエッタに変化をもたらし、寂しいだけであった日々をも変え。


 10年もの月日を罪悪感を背負って生きてきたのに、時おり罪を忘れさせもし。



 ──決して忘れてはいけなかったのに。



 

 目の前のリリスは未だ憎しみの炎をオリーブ色の双眸に滾らせ、鮮烈なまでにアリエッタを罪の意識へと引き込んだ。






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