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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由
アリエッタを冷ややかに見詰めるリリスがふいに表情を綻ばせる。
「まあ、いいですわ」
今度はアリエッタの周りをコツコツと靴を鳴らし、リリスは回り始める。
「お姉さまったら、本当にお綺麗になられましたね。なんだか艶が増されたようですわ」
低かった声が鈴が転がるように高くなり、年相応のそれだ。ころころと変わるリリスの声色は、彼女の気紛れがなすもので。
だからこそリリスが次に何を言うか予想出来ず、アリエッタは常に身構えてなければならない。
「もしかしてお姉さま……恋でもなさったの?」
背後から腰を折って覗き込むように顔を出した。
「え……?」
アリエッタは眼を見張る。
一瞬、恐怖が吹き飛ぶ。
(“恋”? 私が恋……?)
自分には起こり得ぬ響きに心がさざなみ立つ。
ざわり、ざわりとしたさざなみは波紋を広げ、アリエッタの心に収まりきらず、身体の隅々にまでその手を伸ばした。
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