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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由


「まさか、図星ですの?」


 眼を見開くアリエッタにリリスは驚いて聞き返した。


「ちが……」


 すぐに否定の言葉を言おうとすれば、どういう訳か最後まで紡げない。


「そう、なのですね?」


 リリスの低くなった声に恐怖する間もなく、アリエッタは自らの感情に愕然としていた。


 恋をしているかと訊かれ、瞬時に過ったのはレオであった。それまで罪との対峙に支配されていたにも関わらず、だ。


 リリスが憎しみの炎を滾らせているのも意識の外に放り出され、アリエッタは口許を掌で覆う。


(私……レオに恋を……?)



 人に指摘され、初めて自覚した恋心。


 彼の傍にいるとふわふわとした心地にもなり、どん底にまで落とされたり。感情の波が激しくないアリエッタを一喜一憂させるのは、いつだってレオだった。


 なぜ今まで気付かずにいたのか……。これほど簡単な答えはなかったというのに。


 いや、気付けたはずはなかった。アリエッタはリリスを差し置いて、女の幸せを感じまいと固く誓い、自戒し続けてきたのだから。



 だが呆気なく、その誓いを破ってしまったのか──。


 アリエッタは深く掌の中に顔を埋め、また愕然とした。







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