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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由
「もうその方と結ばれたの? それとも想いを告げられた?」
リリスは底冷えする声で尋ねる。アリエッタはハッとなって顔を上げた。
「答えて、お姉さま!」
声を荒らげられ、アリエッタの肩口がびくりと跳ねた。
「いいえ……いいえ! してないわ」
蜂蜜色の髪が乱れるのも構わず、アリエッタは大きく首を振った。確かにリリスとの約束を破ってしまった。レオにも触れられた。だが、レオの言うことが本当ならば、アリエッタの純潔は守られているはずだ。それに気持ちもたった今自覚したばかりで、伝えてはいない。
「本当かしら? お姉さまは私と違ってお美しいですもの。男の方をかどわかすのだって、簡単なんじゃなくって?」
「してない……してないの。だってあの方は……」
……そう。そうなのだ。レオにはもう──。
「心に決めた方がいらっしゃるの……」
口にすると鋭い痛みが胸を抉る。
恋を自覚した途端、その恋は破れ去っていた。
アリエッタはひどく惨めで、情けなく、心が押し潰される気持ちがした。
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