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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由



 なにをしろと言われたか、アリエッタは理解出来なかった。


 レオに……抱かれろ?


 それはおかしな話だ。かつて老齢の伯爵に嫁ぐと決まったアリエッタに反発したのはリリスであったはずじゃないか。


 女の幸せを感じるのは赦せないと、あれほど父にも訴え、何日も喚き散らした。


 それなのにレオに抱かれろとはどういうことだろうか。聞き間違えか、若しくはリリスの言い間違えか。


 どちらかであって欲しいと切に願った。だがリリスは繰り返す。


「その方にお姉さまは抱かれるの。ね、愉しいでしょ?」


「む……無理よ……。リリス、お願い……。そんなこと私……」


 二度も言われれば、流石のアリエッタも冗談でも聞き間違いでも、ましてや言い間違いでもないと解る。


 けれど認められない。認めるわけにいかないのだ。



「あら、どうして? お姉さまなら大丈夫よ。きっとやり遂げてくださるって信じてるわ」


「そうじゃなくて……なんでそんなことを?」


「なんでって……わからないの? お姉さまをもっと傷付けて差し上げたいからに決まってるじゃない」


 リリスはまるで今日の食事について答えるかの気軽さで言った。








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