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隠匿の令嬢
第9章 息を殺して生きる理由



 リリスはアリエッタを両腕に閉じ込める。アリエッタを逃がすまいとしているかのようだ。


 そして僅かに踵を持ち上げ、アリエッタの耳に唇を寄せた。


「大丈夫。私の言う通りにすればいいの」


 いつになく優しい囁きはアリエッタの鼓膜からするすると蜘蛛の糸のように入り込む。


「その方に身体を寄せて、こう言うの。……“私を抱いてください”って」


 糸はアリエッタの内部を這って、頭の先から足の爪先までと蠢いて伸びていく。


「男の方はね、好きな女性でなくても抱けるものよ? だからお姉さまのことも抱いてくださるわ」


 臓物から感情に至るまで、糸は絡み付いてアリエッタ蹂躙する。


「私の言うこと、聞いてくださるわよね? アリエッタお姉さま」





 最後通告の一言は、完全にアリエッタを縛り付けた。


 ──ええ、そうね。リリスの願いならば聞かなくてはね。





 内側を糸で縛られ、外側を黒に染めたアリエッタは瞼をそっと伏せる。


 リリスの言うことは、絶対。


 それがすべてであった頃に、アリエッタは引き戻された。







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