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隠匿の令嬢
第10章 真夜中の逃亡と──



 衛兵が立つ表門ではなく、使用人が使う建物のある裏口からアリエッタは抜け出した。


 ガウンとナイトドレスだけという、なんとも心許ない格好だ。夜中であってもまったく人気がないわけでない。


 しかし誰に見られようが、アリエッタにはどうでもよかった。




 実の親や妹に蔑まれ、切り捨てられたアリエッタを掬い上げ、慈しみ、いつしか愛してしまった相手にも見限られた。


 鉛のように重い心中が肉体をも重くしているのか、足を引き摺るように歩く。


 泣き叫ぶ気力もなく、喚き散らす声も出ない。


 胸は剣でめった刺しにされ、引き裂かれ、それでも尚抉られるほど痛めつけられているのに、体内に残るリリスの呪縛が涙を流させもしない。


 吐き出せない辛さが一層アリエッタを苦しめ、中からじわじわと腐ってしまいそうだ。




 だのにアリエッタを更に苦しめろと天が言っているかのよう、不穏な存在がアリエッタへ近付いていた。






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