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隠匿の令嬢
第10章 真夜中の逃亡と──


 酒気を孕み、千鳥足の中年男が二人、薄着で歩くアリエッタに眼を留めた。


 なにごとかを二人は耳打ちし、下卑た笑いを浮かべてアリエッタの前に立ち塞がる。



「お嬢さん。こんな夜更けにどうしたんだい?」


 アリエッタはいやらしい目付きの男にゆるゆると虚ろな眼を持ち上げる。


「おい、こりゃあ上玉だぞ」


「しっ、黙っとけ。……家出かい? それともどこかへ向かう途中……というわけじゃなさそうだね。行き場がないなら、どうだ? 私たちと来るか?」


 ひとりの男がアリエッタの肩を抱く。密着すると酒と中年の男独特のすえた匂いが鼻につく。


 酒と欲情からか血走る眼を、アリエッタへと舐めるように下から上へと走らせていて。


 触られる肌も匂いも気持ち悪かったが、抵抗はしなかった。


 そうすると男たちは調子づいてにやりと笑い合って、アリエッタをどこかへ連れて行こうとする。


 アリエッタもこの男たちが自分になにをしようとしているか解らなくはない。だがそれで良かった。


 なぜならアリエッタはようやく理解したからだ。


 リリスはひとつだけ間違っていたことに。



 そしてアリエッタは二人に挟まれるかたちで、抗うでもなく導かれるまま従った。





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