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隠匿の令嬢
第11章 夜会での邂逅



 静かに寝息をたて始める彼の横。アリエッタの心は悲痛にさざめきだす。


 キスに特別な意味はない。ただの挨拶だろう。


 だが挨拶であっても歓喜にうち震えてしまうのが虚しい。


 まるで恋人にするみたいな甘やかなキスをされ、勘違いしそうになって。温かく優しい腕で包み込まれ、自分は特別なのではと自惚れそうにもなって。


(違うのに。馬鹿ね、私……)



 アリエッタを欲望のはけ口にしか見てないならば、いっそのこと好きなときに呼びつけ、隣で眠ったりして欲しくない。


 情事の名残を甲斐甲斐しく拭ったりもしないで欲しい。


 無理に身体を開き、欲望だけを吐き出し、放置されていたなら、もっと割り切れただろうのに。


 明日、彼はアリエッタと同じようにこの腕で他の女を抱くのだろうか。甘く蕩ける口づけをして、満遍なく愛して。


 そして腕に閉じ込め眠るのだろか。








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