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隠匿の令嬢
第13章 知られざる秘密
リリスが傷を負う腕を他方で握る。
幼い彼女が想像を絶する苦痛を与えられた瞬間の話は、リリスに辛いものだろう。
父は苦虫を噛み潰したような表情で、母は口許を掌で覆った。
「わ、私が知るのはこれだけ……です」
侍女が言うと、隣のコックが今にも泣き出しそうにしながら話し出した。
「も……申し訳ありません! すべては私が悪いのです!」
堪えきれず大粒の涙を流すコック。
「あなたが今すべきことは謝罪ではありません。早く話なさい」
泣いているコックにジョシュアが冷淡に告げる。
コックはしゃくり上げ、嗚咽混じりに語る。
「私……気付かなかったんです! まさかキッチン台の向こうにリリスお嬢さまがいらっしゃるなんて夢にも思わなくて……!」
四つん這いでリリスがキッチン台の下までたどり着いた光景が脳裏に浮かぶ。
向こう側にはコックが立っていた。
──駄目よ、駄目……。もう何も言わないで……。思い出しても駄目……。
アリエッタの願いは虚しく、コックの語る話を前に消え去る。
「熱したお湯を冷まそうとキッチン台の鍋敷きに移そうと……。毎日のことだから、身体が覚えていて見ずに置こうとしたのが間違いでした。そこにリリスお嬢さまの手があるなんて……!」
腕だけ伸ばし、キッチン台を探るリリス。
偶然だった。鍋敷きの上を探った拍子、ヤカンが置かれた。
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