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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界
アリエッタが落ち込んでいるときや、哀しみに暮れているとき、慰めてくれたのは絵であった。
ザキファス邸に住んでいたころ家族から疎外され、心を通わせられない日々も、絵を描いているうちは他ごとを考えずにいられた。
だがそれも、今や過去の産物に過ぎない。
──今日も駄目ね。
レオの肖像画を仕上げようと、キャンバスを前に絵筆を握ってはみても、失った色は戻る気配すらない。
無色の世界はなんと味気ないことか。
風に揺れる草木を見ても、空を見上げてみても、建物や土を眺めても。
そこにあるのは灰色だけ。
瞼を閉じれば眼裏に焼き付くレオの月色の髪や透明度の高い美しい琥珀色の瞳や、そして鮮烈な色彩は思い起こせる。
だが眼を開いた途端、散々に霧散し、灰色が広がってしまう。
「まだ時間はあるわ……」
キャンバスに塗られる乾いた絵の具の感触を指で辿り、独りごつ。
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