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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界



「でもなぜそんな遠くからわざわざ花を買い付けてらっしゃるの? 殿下からお花の話を伺ったことはありませんが、よほどお好きでらっしゃるのね」


「僕もよくは知りません。あ、だけどここの花、薬草が多いんですよ。ほら、そこのアリエッタ様の前にある黄色い花も、根を煎じると傷薬になるんです」


 キッシュが指差す花をアリエッタは花弁にそっと触れる。


「これが?」


「いえ、それじゃなくて……。黄色いのですけど……」


 ──しまった、と内心肝を冷やす。


 アリエッタの前には隣り合って二種類の花が植えられている。キッシュから見て手前の花に触れてしまった。


「アリエッタ様?」


 訝しむキッシュとリンゼイ。


 アリエッタが色彩を感じられなくなったのは、誰にも秘密にしているのだ。


「ごめんなさい、私ったら。こっちよね。こんなに可愛らしい花が薬になるなんて、不思議ね」


 アリエッタは動揺を悟られないよう、隣の花をまじまじと見詰めた。





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