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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界



 邸の正面に馬車が停止し、ジョシュアに続いてレオが降り立つ。


 リンゼイはバルコニーの手摺を握り、身を乗り出してレオに熱い視線を送っている。


 レオとジョシュアが二人に気付き見上げると、彼女は一際顔を輝かせ、控え目に手を振った。


 その横顔はとても眩しく、一途にレオを慕っていると解る。


「お好き……なんですね」


 アリエッタは無意識にぽつりと溢す。するとリンゼイはぱっと反応し、みるみる頬を朱に染め上げる。


「ええっ!? あ、あの……そんなにわかりやすいですか?」


 赤い頬を手で覆い、リンゼイは気恥ずかしげに縮こまる。


 アリエッタは僅かに眼を細め、小さく微笑む。


 初めてリンゼイを羨ましいと思ってしまう。真っ直ぐに愛する人を見詰める姿も、抱く恋心を隠せない様子も。


 アリエッタにはもう出来ないことばかりだ。


 レオのことは好きだ。けれどリンゼイのよう、真っ直ぐも見られないし、恋心を表面に出すのも憚られる。


 レオのためにも、一途に彼を慕うリンゼイのためにも、アリエッタは早くレオへの気持ちを断ち切らなければと思った。





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