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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界



 上掛を身体に巻き付けたアリエッタは部屋の入口までレオのあとに従った。


「帰りは朝方だから、寝てるんだぞ」


 レオはまた額に口付けると、背を向けた。


 ──それは無意識だった。


 取手に手を掛けたレオの上着の裾を指先で摘まんでしまっていた。


 つん、と微かな衝撃はレオも気が付いたようで。彼が振り返ると同時にアリエッタも摘まんでいることに気付く。


 ──あ……。


 アリエッタは己のした行動に少しだけ驚き、慌てて引っ込める。


「アリエッタ?」


「糸屑がついてたように思ったけど……違ったみたい」


 裾を掴んだ手をもう片方で握り、取り繕う。


 レオが探るような眼差しを向けてきたものだから「遅れるわ」と彼の背中を押した。


「……行ってくる」


「気をつけてね」


 アリエッタは濁りのない笑みでレオを送り出した。




「成長しないのね……」


 アリエッタは独りになった部屋で掌を見詰め呟いたが、聴いているのは窓の外に浮かぶ月だけだった。





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