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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界
濃い緑の香りと甘い花の香りに迎えられる。
それを胸いっぱいに吸い込み、アリエッタは口許に自然と弧を描いた。
アリエッタは葉や花弁を撫でるように触れながら歩みを進める。
どこもかしこも思い出が詰まる景色だ。色々なことがあった。レオと出逢ったのもここだ。
思い出に浸り、そろそろと歩いていれば、不意に人の声に足を止める。
──この声って……。
二人分の声にアリエッタの胸がキュッと縮む。
ざわざわと波立つ気持ちを胸に抱きつつ、緑に隠れながらその声の元を盗み見る。
こっそり立ち聞きするなど悪いことだ。だがそんな考えは、すぐに吹き飛んでしまう。
アリエッタがレオと出逢った場所──あのベンチで彼とリンゼイが並んで座り。
泣いているリンゼイの手をレオが握り、背中を擦っていた。
リンゼイがふと顔を上げる。
その濡れた瞳でレオを見詰め、彼もまたリンゼイを見詰め返していた。
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