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隠匿の令嬢
第16章 灰色の世界




 もうそれ以上見ていられなかった。


 声を上げず、足音をさせずに立ち去れたのは奇跡に近い。


 温室を出た途端、ドレスの裾からドロワーズが見えてしまうのも構わず走った。


 嗚咽を洩らさないよう口を掌で覆って走り、温室から少し離れた木の影に手をついたときには息苦しさで胸を喘がせた。


 息を整える間もなくくぐもった嗚咽が洩れてくる。


 ずるずると木の幹を掌が滑り落ちるのは、アリエッタが崩れたから。


 あの温室はアリエッタにとって大切で特別な場所。


 レオと出逢い初めてキスをして、彼の絵を描き、初めて肌を晒し、そして救われた場所だ。


 どんな思い出にも変えがたいところだ。けれどレオにとってはそうではなかった。いや、この先リンゼイとの大切な場所になるのかもしれない。


 そう思うとやりきれなかった。


 苦しくて、苦しくて……。


 呼吸をこれまでどう行っていたのかも解らないほど、苦しかった。




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