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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る
レオはゆったりとベンチに腰掛け肘掛けに頬杖をついてむすりとしている。アリエッタは反対側の端っこで華奢な身体をさらに小さくし、ドレスの上で拳を握り締める。
その脇ではセドリックが紅茶をサーブし、銀器に盛られるドライフルーツがちりばめられたパイやチョコレートプディング、スコーンや生クリームがたっぷり乗ったココアスポンジケーキなど美味しそうなお菓子を見事な配置で取り分けてアリエッタの前に置く。
「召し上がれ」
どれも美味しそうだが喉を通りそうにない。隣では不穏な空気を醸し出すレオが、いつもの甘やかな笑顔が嘘のような仏頂面でいるのだから。
「ごめんなさい……私……立ち聞きするつもりじゃ……」
レオは微かに首を傾げ「ああ」と思い立ったような声を漏らす。
「違う、違う。俺が腹立たしいのはアリエッタじゃなく、こいつ。それと大体察してるだろけど、こっちが素だ。がっかりしたか?」
アリエッタは首を横に振る。がっかりもなにも、レオのことは名前以外ほとんど知らないわけだし、紳士的な振る舞いや微笑こそないが、彼の色彩は変わらず素晴らしい。
それに不思議なことにこちらのほうが違和感なく思える。
丁寧な口調で強引さや高慢さを垣間見せていただけに、丸の中に四角が嵌まっていたような……。今のほうがあるべき形に収まったしっくり感があった。
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