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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る
「なら仕方ない。俺は甘い物は苦手だし、処分するしかないな」
「えっ!? 処分って……捨ててしまわれるんですか!?」
「仕方ないだろ? アリエッタはいらないと言うし、この季節だ。長くはもたないし、持ち帰るとコックが口に合わないかったかと哀しむし」
「い、いただきます! いただきますから処分はしないでください」
その場で皿を傾けて捨てようとしたレオを慌てて止める。
アリエッタは邸でお菓子作りの手伝いをしていたから、どれだけ手間隙かけて作っているかを知っている。
お菓子にだって罪はない。材料となる小麦やフルーツも農夫が苦労して育てたものだ。無下に出来るはずはない。
「よかった。あとで感想を聴かせてくれるか? こっちのジンジャースナップは伝統的な作り方に手を加えて工夫した新作らしいんだ。コックがどうだったかしつこく聴いてくるから、味見して教えてくれ」
レオの要求は味の感想だけだった。食べられない自分の代わりに、ということらしい。
人助けと思えば、罪悪感は和らぐ。
この場所で新たな友人や親しい人を作る気はない。これは人助けだ。温室に通っているのだってキスをされないためだ。──“彼女”との約束を違〈タガ〉えてない。
アリエッタはそう言い訳しているのに耳を塞ぎ、仮初めの自由に身を沈めていた。
すぐそばまで奈落へ突き落とす足音が迫っているというのに、アリエッタはまだ気付いてなかった。
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