この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る
「アリエッタ」
ギルデロイの言葉で過去の記憶と邂逅していれば、しわがれ声に呼び覚まされる。
「あ、はい」
「キミの風景画や歴史画、静物画の腕前は眼を見張るものがある。この先もその腕前が伸びていくのは愉しみだよ」
「ありがとうございます……」
アリエッタは曖昧に微笑む。“この先”があるとは思えない。それを知らないギルデロイに告げることは出来ないが。
「しかしここらで人物画も描いてみてはどうだ?」
「人物画、ですか?」
「というのもな。儂はここ数年毎年個展を開いておるのだよ。次の個展には人物画を主としたい。そこでキミの絵も1枚出展してもらいたいのだ」
「私の絵を……? ですが、私の拙い絵では教授の大切な個展のお目汚しにしかなりません。台無しにしたくはないのです」
アリエッタはとんでもないと眉間を寄せる。
「そんなことはないよ。キミの才能も絵も儂は認めておる。それにだ。儂は今年限りでこの学校を去ることにした。年々老いを感じずにいられなくての。身体が思うように動かない。そこで最後にして最高の弟子の絵を、老いた儂のはなむけに贈ってもらえると嬉しいのだがの」
「教授……」
目元の皺を深くするギルデロイを見上げ、瞳を揺らす。
ギルデロイのためになるなら描きたい。でも、華やかな場所に自分の絵などと迷いも出た。
.