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隠匿の令嬢
第17章 隠匿の決断
アリエッタは馬車の窓に引かれるカーテンを開け、みんなに手を振る。
──ありがとう、ナキラ、キッシュ……みんな。
言えない言葉たちが口の中で転がる。
たくさん優しくしてくれて、同じ時間を過ごしてくれて。
共に過ごした日々は短かったけれど、家族よりも親しく接してくれた感謝は決して忘れない。
ガラゴロと車輪が転がり、遠退くアッシュブランの邸や人々をいつまでも目で追った。
思い出が詰まり過ぎるこの邸は、迎えるときも見送るときもアリエッタに優しかった。
見えなくなると胸が潰れてしまいそうで、息をするのもままならない。
──レオ、みんな……。ありがとう。さようなら。
哀しみに押し潰されてしまいそうになりながら、アリエッタは震える身体を抱き締めた。
けれどもうアリエッタは涙を見せなかった。
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