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隠匿の令嬢
第19章 再起のとき



 寝台の脇に用意された椅子に父と並んで座り、公爵と会話を交わす。他愛ない会話だ。


 体調のこと、数年前に妻を亡くしたという彼への気遣い。政治の話も軽く挟む。


 その会話の切れ目。レオはある質問をした。


「公爵。あちらの部屋に飾ってある絵はどなたが描かれたものですか」


 レオがした質問に、公爵の顔が不意に翳る。してはいけない質問だっただろうか。だが彼は淋しげな笑みを浮かべて教えてくれる。


「あれは……名もない画家が描いてくれたものです」


 名もない──。濁されたことよりも、その響きに違和感を覚えた。


 ザキファス公爵ほどの人物であれば、宮廷画家に引けを取らない画家に肖像画を描かせることなど容易だ。


 自室に飾るのならば尚更。大切にしているであろうことは一目瞭然。なのに名を教えないのは、事情あってのことだろう。


 しかしレオはどうにかして画家の名を知りたいと、なぜか思ってしまった。


 帰り際「また伺っても構いませんか」と聞き、了承を得てから、レオはこの日から毎日のように公爵の邸に通うようになった。





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