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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ
「ただいま戻りました」
寄宿舎に帰ったアリエッタは寮母に挨拶をする。
「アリエッタ、待ってたわよ。急に出ていくことになったって……。話してくれてもいいのに」
人の良さそうな丸みを帯びる顔をした寮母が頬に手を宛て寂しげに言う。
「なんのお話ですか?」
怪訝に寄せられた眉間。
「なんのって……アリエッタ、あなたのことよ。今年いっぱいずっと寄宿舎に住むって話だったでしょ? それが今日限りで出ていくなんて。あなたの代理人って紳士から荷物を纏めておくよう言われたから、悪いと思ったけど勝手に部屋に入らせてもらったわよ」
「え? 誰の代理人って……? 私そんなこと……」
「そうそう、手紙を預かったわ。急だったから送別パーティーも出来ないわねぇ」
寮母は宛名も差出人も記されてない白い封筒をアリエッタに手渡す。
木造の建物をアリエッタは駆け出し、部屋に飛び込んだ。
少ない荷物ながらも整頓し所々にアリエッタの生活痕がちりばめられた質素な部屋は、荷物を纏められひっそりとしていた。
アリエッタは走って動悸が速く鳴る胸で大きく呼吸を繰り返し、瞠目していた。
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