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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ
ぺたりと座り込んだ木の床は、この数ヵ月で馴染んだ感触だ。けれども今やアリエッタを余所者として追い出そうとしている空々しさがある。
アリエッタの漆黒の双眸は空虚を見詰めていた。
ここを追い出されたら、生きていく術がない。だのに非情にも現実は生々しくたった一枚の紙で突きつけられた。
寄宿舎に居続けれないかと頼もうかと脳裏を過る。次の瞬間には、それは出来ないと思った。
なぜなら彼女の楽しみをアリエッタは奪えないから。
与えられる試練は全部受け入れ、それが彼女の生きる糧となる。
アリエッタはおもむろに古びた茶色のバッグを開ける。こじんまりしたなんの変哲もない、使い古しの皮のバッグは、アリエッタの服を納めたもの。寮母が綺麗に畳んで入れてくれたのだろう。
そこから机にしまってあった鍵を探し、取り出した。
鈍色のそれは掌の上で冷たく儚い存在となった。
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