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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ



 最後にアリエッタはこの二週間避けていた温室を目指した。この時間になると駆け足で太陽は落ち、月の出番だと夜暗を彩る。


 温室にたどり着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


 この鍵も使うのは最後か、と思うと急に淋しさが込み上げる。あんなにも返したかったはずなのに。


 どこからともなく虫が咽び鳴く声がする敷地にカチャリと鍵を開ける音が響く。


 夜の温室は昼間とはまた違った景色を見せていた。


 鮮やかに咲く花は寝かせてくれと色を翳らせ、艶めく緑は濃く茂る。


 多種ある花を描いたが、やはりどの花より鮮明に思い出すのは彼だった。


 ギルデロイとの約束も最早叶えるのは難しいだろう。働くのであれば、絵は今までのように描けない。


 修道院へ行くのであっても、どんな所かは知らされていないが環境はあまり良くない所だろう。その日その日食べるのがやっとな、貧乏修道院。


 アリエッタが骨を埋めるには相応しい、そんな場所であると彼女に言われたことを思い出し、ふっと笑みが漏れた。







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