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隠匿の令嬢
第4章 巣を追われた灰ネズミ
アリエッタは温室内をぐるりと1周する。
鍵を借りているという心苦しさが無ければ、この場所は素晴らしく居心地がよかった。何時間……1日中居たって飽きない。
暖かく守られてすくすく育つ植物が羨ましくもあり、外では生きていけず囲われて本物の自然を知らない環境で生涯を終えるのが、自由に羽ばたく羽を無くしたアリエッタとどこか似ていて。
だから居心地がよかったのかもしれない。
アリエッタは1周を歩き終え、テーブルとベンチが置かれる敷石のうえ、ベンチが正面に見えるよう座る。
隔絶された空間で独りいると、ふいに淋しさとこれからの不安がどっと溢れる。
今日はアリエッタの17の誕生日。誰もが祝福を受ける権利を持つ日。
アリエッタは誕生日になるといつも想像した。家族と親しい友人に囲まれ、口々に生まれてきてくれた感謝を述べられ、美味しい料理に舌鼓をうち、溢れかえる笑い声に包まれたらどんな気分だろう、と。
残念ながら10年以上経験はなく、それ以前の記憶は遠く彼方へ追いやられ。
自分が憧れるものを片隅でそっと窺うよう眺めるばかりだった。
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