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第8章 【紫陽花色の雨】
「‥てっきり俺のことなんて忘れちまってんのかと思ったから。
しかもなんか貴史と近かったし」

思い出したら腹が立ってきたのか、爽介が急にがばりと谷間から顔を上げ、私に詰め寄る。

「お前、貴史を狙ってる?!」

この状況で、お互いに裸に近い状態で向き合っているのにいったい何を言い出すのだろう。笑ってしまった。

「沈黙は肯定だぞ。笑うな馬鹿!」

『‥違うよ。そんなことあるわけない』

つまらないことで頬を膨らませている爽介の額に口付けた。
その瞬間、笑っているのに私の両眼からは涙がこぼれた。

『私、爽介を利用しようとしてる。漬け込もうとしているのは本当は私の方なの。
葵に言われた。残酷な女だって』

Tシャツを脱がされた。
濡れたままの髪の毛が首筋や肩に張り付く。
きつく抱き締め、爽介が私の額に額を寄せる。

「―お前が残酷なら、俺は卑劣だろ。
お前が弱っているのをいいことに自分のモノにしようとしてんだから。
‥お前は何も悪くない。全部俺のせいにしていいから。
こうなったらもう、後には引けない。
言っただろ‥逃がさないって。
もう理由なんてどうだっていいからお前が欲しい」

*****

鎖骨に爽介が噛みついた。
両乳房が揉みしだかれる。痛いくらいの力だったけど、快感だった。
乳首に舌が這う。二の腕、腰、太股とあらゆる場所に爽介の手のひらが動き回った。
私が淫らな声を上げる度、爽介の息が乱れた。
息が乱れれば乱れるほど、もっとその艶めいた吐息を聴いていたかった。
爽介の心臓がトクトクと少し速めの鼓動を刻んでいる。
高速エスカレーターで地下に落下していくような心持ちがした―

爽介の背中に腕を回す。私の指が背骨をかすめた時、爽介の背筋と腰がわずかに動いた。暫く、撫で擦った。
男のひとはどうしてこんなに体温が高いのだろう。
身体を密着させればさせるほど悦びが研ぎ澄まされるような気がして、回した腕の力を強くする。
爽介の二の腕の筋肉が反応した。
爽介の鍛え上げられた筋肉は鋼のようで、同じ人間なのに男と女の身体の違いを不思議に思う。
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