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第10章 【微熱への処方箋】
泣きながら高速回転する体操服真央を助けてやりたかったけど、結局は我が身が一番可愛い。
テーブルの下に隠れて濡れおかきを食べた。
6時だった。
助けを求める真央の笛の音が哀れだ。

『ガンバレー』

ストーカーって怖いと実感しつつ、意識を手離した。

*****

「‥みちるちゃん、お熱出てる…」

9時頃、テーブルの下から引っ張り出され、パンツ一丁葵が私の身体を高い高いした時、発熱していることを指摘される。

テーブルの上には葵と真央の署名済みの婚姻届が載っていた。
壁にもたれて眠っている真央もパンツ一丁で、穏やかな微笑みを浮かべている。
真央に赤飯を炊いてやった方が良いのだろうか。

葵は真央を蹴飛ばし、布団を敷いて私を寝かせた。
体温計を取り出し、計測する。37.4度。
平熱は36.5度。微熱だ。
スマホを手に取り、ふすまの向こうに葵が消えた。

跳ね起きた真央がはにかみながら私の手を取る。

「ミーコ‥俺、お婿さんじゃなくて葵のお嫁さんになるよ…!!」

赤飯を炊いて、青い下着を買ってやろう。
昆布やら海老やらも支度してやらなければならない。
真央と手を握り合っていたら、葵が真央の長髪を掴んだ。

「優しくして下さい…」

恥じらいながら真央が身をよじる。
葵が無言で真央の首筋にスタンガンを押し当てた。
白眼を剥いた真央を担ぎ上げ、隣室に棄てに行く。
いくらこのボロアパートが自分の祖父の持ち物だとはいえ、男ふたりがパンツ一丁でその辺をうろついて大丈夫なのだろうか?

『お若いふたりに任せましょう…』

とろとろとうたた寝を始める。

*****

「‥店長さんに電話して、今日みちるちゃんはお休みにしてもらったから…」

部屋着に着替えた葵が、私の額に濡れタオルを乗せながら囁く。

「‥夏風邪かな。少しだけ眠って、お粥を食べて。お薬飲みなさい。‥意地悪してごめんね…」

頬に葵の唇を感じた。
再び、微睡みに身を委ねた。

*****
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